万博の技術が被災地を支える―熊本「的ばかい」現地レポート【後編】

2026.01.30 ユーザーボイス

「また来年も」を支えるもの。被災地用大浴場キットが生まれた背景

「被災地用大浴場キット」の浴槽につかる参加者たちの表情は、疲れから笑顔へとすぐに変わっていました。

「また来年もこのお風呂に入れるようにしてほしい」

「体が温まると気持ちも前向きになる」

この特別な入浴体験を支える技術は、実は昨年の万博で1,277名が体験して高い満足度を得た「ミライ人間洗濯機」と同じ、ミラブルテクノロジーです。

災害時、最も不足するのは入浴環境だと言われています。インフラ復旧は電気、水道、ガスの順に進むことが多く、避難所生活では数日間お風呂に入れないことも珍しくありません。「温かいお風呂」が、被災者の心と体を支える―そんな課題に応えるために、この大浴場キットは開発されました。

なぜ長洲町は導入を決めたのか。どのように開発されたのか。担当者たちが明かす、開発と導入に込めた想いとは。

 

「お風呂があることが、どれだけ心の支えになるか」―長洲町が導入を決めた理由

長洲町 総務課 危機管理対策室 室長 中島 良治さんに、導入の背景と想いをうかがいました。

Q. 長洲町として「災害時の入浴環境」について、どのような課題意識を持たれていましたか?

常日ごろから災害後の住民のケアを考えていました。国から避難所の環境改善としてベッドやお風呂の導入が推奨され、交付金が出ることになったのも後押しになりました。

災害の後は気が張っていますが、お風呂に入るとリラックスできます。心のケアとして、また災害関連死を防ぐためにも、お風呂を筆頭に災害後のインフラ設備は大事だと考えていました。生き残った命をどうにかして守りたいというのが一番強い想いとしてありました。

Q.サイエンスの技術提供によるキンパイ商事の「被災地用大浴場キット」を導入された決め手は何だったのでしょうか?

決め手の一つは、「シャンプーや石鹸なしで洗身できる」という点です。災害時は汚れた水を側溝に流さなければいけませんが、洗剤が混ざっていると環境によくありません。このシステムなら水と空気だけなので、そのまま流せるというのが大きかったです。

Q. 被災地支援用として導入した設備を、伝統行事「的ばかい」で活用することになった背景を教えてください。

昔は近くに海水を沸かした潮湯があったのですが、閉業されてからは祭りに出た方が温まる場所がなくなってしまったんです。今回は導入した大浴場キットを、祭りで提供できないかと考えました。

参加者の皆さんに喜んでいただくことももちろんですが、ただ備品として持っているだけでは意味がありません。こうした機会に使うことで必要な時にスムーズに活用できるよう「訓練」する事が必要だと考えています。

Q4. 今後、長洲町としてこの大浴場キットや同様の仕組みを、どのように活かしていきたいと考えていますか?

今回のように定期的に活用することで、有事の際にすぐに使えるように訓練する機会を作っていきたいです。地域住民の方々に対して、この大浴場キットの認知を広げていきたいです。

長洲町のみなさんの安心とサイエンスの技術がつながることになって、本当にうれしいでスー

 

「水と空気だけで洗浄できることが災害時大きな強みに」―技術開発に込めた想い

被災地用大浴場キットの開発を担当したキンパイ商事 代表取締役社長 山本 日出男さんに、開発の背景と想いをうかがいました。

Q. 被災地用大浴場キットを開発するに至った背景には、どのような問題意識がありましたか?

元々、十年前に某県庁に大浴場キットの製造販売実績があり、それ以降取り扱いがありませんでした。今回、防災庁発足に伴い、災害現場の避難所の環境改善が大きなテーマとなっており、弊社の大浴場キットとサイエンスさんの技術を融合し、災害現場に強い大浴場キットを開発することになりました。

Q. 大浴場キットを作成する中で、特に重視したポイントを教えてください。

やはり「洗剤を使わずに洗える」というのが一番のポイントです。まずシャワーブースでは、「ミラブル」のシャワーヘッドのウルトラファインバブルで汚れを除去し、浴槽では『ミラバス』の技術によりマイクロバブルを発生させ、洗浄力・保温保湿効果による最適な入浴を可能にし、被災者の方々に癒しを与える商品開発を目指しました。

災害時、下水管が破損して洗剤の使用ができない場合でも、水と空気だけで洗浄できる。このシンプルさが、災害時という過酷な環境下での大きな強みになります。

Q. 屋外・大量利用という環境下で、大浴場キットを運用するうえで工夫した点を教えてください。

水槽への装置の接続やサイズの設計ですね。大きすぎず小さすぎないサイズ感や、ボイラーの能力計算などに工夫を凝らしました。

シャワーが6個、浴槽には8人から10人が入れるので、1クール20分。避難施設にいる方が100〜150名程度だとすると、約3時間で全員の入浴を終えることができる計算です。

もう一つ重要なのが、「平時にも使える」ということです。いつ来るかわからない災害のために10年間倉庫に持っているだけでは意味がありません。平時にスポーツ大会やお祭りなどで市民に使っていただき、市職員等が定期的にこのキットを設置することで、自然と防災訓練も実現し、いざというときにも迅速に対応できることになります。

Q. 今回の取り組みは、サイエンスが掲げる「技術の社会実装」という観点で、どのような意味を持つと考えますか?

ファインバブル技術は、家庭用「ミラバス」「ミラブル」として実用化され、多くの家庭で使われています。しかし、技術の可能性はそれだけではありません。

災害時の入浴環境確保、地域の伝統行事支援など、社会課題の解決につながっています。「技術を、本当に必要な場所に届ける」ことが、社会実装の本質だと考えています。

我々がサイエンスさんと協力して、マイクロバブル・ウルトラファインバブルの機能を取り入れたこの製品を導入したのは、全国の市町村ではじめてです。今回の取り組みが、その第一歩になればと思います。

Q5 この大浴場キットが、今後どのような場面で活用されていくことを期待していますか?

銭湯などの入浴設備が少ない地域は、災害時の入浴環境の確保が難しいと思うので、そういったところの需要に応えていきたいです。現在は他の自治体からもお問い合わせが増えており、今後も動き出す予定です。

以前テレビで観た被災地の方のインタビューで、発災初日から高齢者の方が「とにかく温かいお風呂に入りたい」とおっしゃっていました。お風呂は心のケアとして即効性があると思います。

「温かいお風呂」が、人の心と体を支える場面はたくさんあります。この技術が、全国の「必要な場所」に届いていくことを願っています。

キンパイ商事さんの技術とサイエンスの技術が見事に合わさったでスー。いろんな場所にキットが広がっていくことを願うでスー

 

万博会場、家庭、被災地をつなぐ「温かさ」

この物語は、実は1970年に遡ります。

1970年の大阪万博に展示された「人間洗濯機」。夢の技術として、多くの人の心をつかみました。あの展示に胸を躍らせた少年の一人が、後にサイエンスを創業し、ファインバブル(超微細気泡)の研究を重ね、技術を確立して実用化へと導きました。

家庭用「ミラバス」「ミラブル」として実用化され、ミラブルは2025年10月には累計販売数170万本を突破。1970年の夢が、家庭の日常に根づいたのです。

そして2025年、大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオンに「ミライ人間洗濯機」が登場しました。カプセル型装置の中で、AIが心拍心電波形を計測し、映像と音楽で「心ココロまで洗う」体験を提供。核となる洗身の技術は、ミラバスとミラブルでも使用されているファインバブル技術です。万博期間中、1,277名が体験し、大きな話題となりました。

55年の時を経て、夢が現実に。

万博の最先端展示として注目される技術。多くの家庭で使われている「ミラバス」「ミラブル」。そして、今回の被災地支援用の大浴場キット。

万博会場、家庭、被災地―見える場所は違っても、「人を温める」という想いは同じなのです。

ひとつの技術が時間や場所、目的の枠を超えてつながっていると思うと感激でスー

 

物資だけじゃない、「心と体のケア」という支援

災害支援というと、食料や生活用品などの物資支援を思い浮かべます。もちろん、それらは絶対に必要です。でも、復興は長い道のり。日常の質を取り戻すこと、心と体のケアも同じくらい大切です。

「被災地用大浴場キット」がもたらすのは、単なる入浴体験ではありません。冷え切った体を温め、疲れを癒し、「また頑張ろう」と思える時間。「また来年もこの祭りをやりたい」と前を向く力です。

昨年の万博で1,277名を魅了した「ミライ人間洗濯機」。その技術が、熊本の被災地で、860年続く伝統の祭りを支えています。

ミラブルテクノロジーが、人の心と体を支える可能性は、まだまだ広がっています。

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